更新日:2025.06.24
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電子帳簿保存法の宥恕(ゆうじょ)期間(※)が2023年12月31日で終了し、2024年1月からは電子取引データの保存が完全に義務化されました。これにより、電子メールで受け取った請求書や、クラウドサービスからダウンロードした証憑書類などは、原則としてデータのまま保存する必要があります。
こうした変更に対して、中小企業の経理担当者や個人事業主の多くが、システム整備の遅れや人手不足などの理由で対応に苦慮しているのが現状です。しかし、適切に対応することで、税務調査のリスク回避だけではなく、業務効率化やコスト削減、保存スペースの削減などさまざまなメリットを得られます。
本記事では、電子帳簿保存法の延長措置について、宥恕期間終了後の対応と新たな猶予措置を解説します。
(※)宥恕期間とは、新たな法的要件への対応が困難な事業者に対して設けられた、罰則適用を猶予する期間のことです。
電子帳簿保存法は、法人税や消費税、所得税などの税法で書面の保存が必要な国税関係帳簿書類を、一定の要件を満たした場合に限りデータ保存を認めた法律です。膨大な帳簿書類を磁気記録データとして保存することで、保存スペースの削減やペーパーレス化による環境負荷の軽減、業務効率化を目指しています。
ここでは、電子帳簿保存法の基本的な特徴について解説します。
電子帳簿保存法の対象となるのは、原則として企業の規模や法人・個人事業主といった違いを問わず、ほぼすべての事業者です。
また副業も同様で、所得税法上、雑所得の業務にかかわる前々年分の収入金額が300万円を超える場合は、電子データで授受した請求書や領収書などは当該電子データを要件にしたがって保存しなければなりません。
電子帳簿保存法では「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つの区分に分けられます。これらのうち、2022年1月施行の電子帳簿保存法の大幅な改正で「電子取引」のデータ保存のみが義務化されており、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」は任意となっています。
電子帳簿保存法に対応して電子取引データを保存するためには「真実性の確保」と「可視性の確保」を満たさなければなりません。
要件 |
詳細 |
真実性の確保 |
電子データが正確であり、不正に改ざんされていないことを担保するための要件 |
可視性の確保 |
保存したデータがいつでも閲覧・出力できる状態にあることを担保する要件 |
税務調査でこれらの要件を満たしていない場合、青色申告の承認取消しなどのリスクがあります。とくに悪質な不正があった場合は、重加算税の加重(10%追加)などのペナルティも想定されるため、確実な対応が重要です。
2022年1月に施行された電子帳簿保存法の大幅な改正で電子取引のデータ保存が義務化され、2年間の宥恕(ゆうじょ)期間が設けられました。
宥恕期間の経緯を整理すると、以下のとおりです。
宥恕期間終了後の方針として、2024年1月1日以降は電子取引のデータ保存が完全義務化となりました。これにより、原則として、電子取引で受け取った請求書などは、電子データのままの保存が必要です。
電子取引のデータを紙に出力して保存する方法は原則として認められなくなり、電子データで保存する際は、改ざん防止措置や検索機能確保などの保存要件を満たす必要があります。
宥恕(ゆうじょ)期間は終了したものの、2024年1月1日からは、宥恕期間に代わる新たな「猶予措置」が設けられました。この猶予措置を受けるには、以下の2つの要件をすべて満たさなければなりません。
この新たな猶予措置で要件を満たす事業者は、2024年1月以降も電子取引データの改ざん防止や検索機能などの保存要件に沿った対応は不要となり、電子取引データのみの保存も認められます。
電子帳簿保存法では、電子取引のデータ保存が義務化されているため、適切な対応が必要です。対応を進めることで電子帳簿保存法の保存要件を満たしつつ、業務効率化やコスト削減のメリットも受けられます。
ここでは、電子取引のデータ保存への対応手順について解説します。
最初に、自社がどのような形式で請求書などの書類を作成・保存しているかの把握が重要です。紙とデータどちらで作成・保存しているのか整理し、現状を明確にしましょう。
また、メールの添付ファイル、クラウドサービスからのダウンロードなどの電子取引の範囲を特定することも大切です。
電子取引をデータ保存するためには、「真実性の確保」と「可視性の確保」を満たす必要があります。それぞれの要件を満たすための対処法は、以下のとおりです。
保存要件 |
対処法 |
真実性の確保 |
・タイムスタンプが付された後、取引情報の授受をおこなう |
可視性の確保 |
・保存場所に、パソコンなどの電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンタおよびこれらの操作マニュアルを備えつける |
真実性の確保は対処法のうちいずれかを選択すれば要件を満たせますが、可視性の確保は対処法をすべて満たさなければならないため、注意が必要です。
電子データをいつでも必要に応じて内容を参照・印刷できるような整理が重要です。税務調査の際にすみやかにデータを提示・提出できるように管理することで、スムーズに対応できます。
また、部署ごとに異なる場所や方法でのデータ保管を避けて、統一した管理をおこなうことが望ましいです。
電子データの保存方法や保存場所に関するルールを決めて、社内での運用体制を整えることが重要です。従業員全員が適切に対応できるように社内に周知して、統一した対応を促しましょう。
また、承認制度や業務フローの見直しや改善も大切です。
電子帳簿保存法への対応システム導入は、単なる法令遵守だけではなく、業務効率化やコスト削減、さらにはペーパーレス化による環境負荷軽減など、多くのメリットをもたらします。適切なシステムの選定で、効率的かつ確実に法的要件を満たせます。
システム選定のポイントは、以下のとおりです。
システムによっては無料トライアルを設けているものもあるため、それらを活用して自社にあったものを選ぶのもおすすめです。実際に使用してみることで、使い勝手や機能の充実度を確認できます。専門サービスの活用で、業務負担を軽減しながら確実に法的要件を満たせます。
本記事では、電子帳簿保存法の延長措置について、宥恕(ゆうじょ)期間終了後の対応と新たな猶予措置を解説しました。
2023年12月31日で電子帳簿保存法の宥恕期間は終了したものの、2024年以降は「相当の理由」がある場合に限り新たな猶予措置が適用されています。新猶予措置を利用するには、税務調査の際にデータのダウンロードやプリントアウトの提示・提出に応じられるようにしておく必要があります。
また、適切なシステム導入で法令遵守だけではなく、業務効率化やペーパーレス化のメリットも受けられます。電子帳簿保存法への対応は手間やコストがかかることもありますが、長期的には業務の効率化や経費削減につながる可能性が高いため、自社に最適なシステムを選定しましょう。