更新日:2025.06.26
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電子帳簿保存法では、企業に対してデータで発生した税務関係書類を電子データのまま保存する義務が定められています。具体的には、取引先に送付した請求書や納品書などがあてはまります。
一方で、企業が社員へ向けて発行する給与明細は保存対象に含まれていないため、電子データで作成したとしても保存する必要はありません。
しかし、給与明細を電子帳簿保存法に則って保存しておくことは、従業員と賃金に関するトラブルが発生した際に役立つケースがあります。このことから、保存義務がない給与明細であっても、一定期間の保存が推奨されるため、電子化するメリットを理解しておくことが大切です。
本記事では、電子帳簿保存法における給与明細の保存義務や、電子化のメリットを解説します。
電子帳簿保存法は、企業の帳簿や電子データでやりとりをした税務関係書類などが対象になります。このことから、企業が従業員に支払った給与・賞与などの情報も電子データで作成しているのであれば、電子帳簿保存法の対象です。
一般的には、企業は給与に関する情報を「賃金台帳」に残しています。そのため、電子帳簿保存法では、賃金台帳を保存しておくことで、必要な帳簿が保存できていることになります。給与明細は対象になっていないため、保存する必要はありません。
ただし、従業員との給与に関するトラブルが発生した際に、給与明細を保存しておくことで、疑問点が解消しやすくなります。そのため、給与明細は賃金台帳とともに、5年間保管しておくことが推奨されます。
なお、作成方法によって保存方法は異なりますが、パソコンで作成した場合はデータで、紙で発行した場合は紙もしくはスキャンしてデータとして保管が可能です。
給与明細を電子化することで、発行や保管の手間が削減され、業務効率が向上します。ほかのシステムとの連携もしやすくなり、経理業務の負担軽減が見込めるでしょう。
メリットを理解しないままでは、導入する必要性が明確にならず、自社の対応が遅れ、罰則を受けたり、取引先からの信用を失ったりするおそれがあります。
ここでは、給与明細を電子化することで得られるメリットを3つ解説します。
書面で発行していた給与明細を電子化することで、紙の使用量が削減され、オフィスのペーパーレス化が進みます。印刷の手間やコストが減るほか、保存スペースを確保する必要もなくなるでしょう。
給与明細の電子化は、発行もメール送信やWebシステムの簡易的な操作だけで済むため、経理担当者の業務負担軽減も可能です。
紙の給与明細は、従業員が自宅で紛失する可能性があり、確定申告や公的手続きの際に困るケースがあります。給与明細を電子化することで、従業員は自身のスマートフォンやパソコンからいつでも明細を確認・印刷できます。
インターネット上でいつでもどこでも給与明細の確認が可能であるため、従業員のミスによって紛失してしまうリスクを抑えることが可能です。
電子化された給与明細は、ほかの社内システムとデータを連携しやすくなります。具体的には、勤怠管理システムや会計ソフトと連携することで、給与の計算がしやすくなり、人的ミスも防止できます。
手動で従業員の勤務時間や出勤日数にあわせて給与を計算するよりも、経理担当者の業務を減らせるでしょう。
給与明細を電子化する際は、従業員の同意が必要な点やセキュリティ対策への配慮が必要です。
注意点を理解しないまま給与明細の電子化を実施した場合、法律違反で罰則を受け、企業の信頼を落としてしまう可能性があるため注意しましょう。
ここからは、給与明細を電子化する際の注意点を解説します。
労働基準法では、従業員の同意がなければ給与明細を電子データで交付できません。同意は口頭ではなく、書面または電子署名付きの同意書で証明する必要があります。
紙で給与明細を発行していた企業が電子化へ移行する際は、電子交付のメリットを従業員に説明したうえで、納得してもらうことが重要です。同意なしに電子化を進めると、法令違反になる可能性があるため注意しましょう。
紙の給与明細を発行する場合は、物理的に渡す相手を制限できます。一方で、電子化した給与明細は誤送信や第三者への漏洩リスクを防ぐため、セキュリティ対策が欠かせません。
たとえば、メールの誤送信に対する対策やシステムのアクセス制御、暗号化通信などのセキュリティ対策を考えましょう。定期的なシステムのチェックや、トラブル時に備えた体制も整えておく必要があります。
給与明細を電子化して運用する際は、社内体制の整備や従業員とのコミュニケーション、システム導入など、段階的に準備を進めていく必要があります。手順を理解し、抜け漏れなく進めることで、法令遵守と業務効率化を両立できるでしょう。
必要な手順を理解しないまま給与明細の保存を開始することで、従業員の同意をもらい忘れるといったミスにつながる可能性があります。
ここでは、電子帳簿保存法に則って給与明細を保存する際の流れを解説します。
電子帳簿保存法に対応する際は給与明細だけでなく、源泉徴収票や社内預金の明細など、どの書類を電子化の対象にするかを決めましょう。電子化の対象範囲を明確にすることで、必要なシステムが明確になり、運用フローも決定しやすくなります。
電子化の対象によって求められる機能や必要なセキュリティレベルも異なるため、システム導入前に検討しておくことが重要です。
システムの導入を進める前に、従業員から給与明細の電子化に対する同意を取得しなければなりません。
電子化の同意を得る際は、以下のような情報を丁寧に説明しておくことで、従業員の理解を得やすくなります。
これらの情報を記載した同意書を準備し、署名をしてもらい、正式に同意を得ましょう。
従業員の同意を得たあとは、実際に運用するシステムを導入します。すでに給与計算ツールや会計ソフトを導入している場合は、連携できるシステムを選ぶことで業務が効率的に進みます。
導入時には、初期費用やランニングコスト、操作性、セキュリティレベルなどを比較しながら、自社の規模や運用体制にあったものを選定しましょう。
本記事では、電子帳簿保存法における給与明細の保存義務や、電子化のメリットを解説しました。
電子帳簿保存法では給与明細の保存は義務付けられていないものの、従業員との賃金に関するトラブルに備えて、一定期間は保存しておくことが望ましいといえます。
給与明細を保存する際はあわせて電子化することで、企業のペーパーレス化や業務の効率化、システム連携による業務全体の最適化が期待できます。ただし、給与明細の電子化にあたっては、従業員の同意を得ること、情報漏洩対策を徹底することが重要です。
電子帳簿保存法にあわせて給与明細の保存方法に悩む際は、本記事を参考に適切な対応をしましょう。