更新日:2025.07.28

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電子帳簿保存法の改正により、過去に作成・受領した重要書類もスキャナ保存が可能になりました。しかし、正しい手続き方法やルールがわからず困っている企業が多いのが現状です。
経理担当者や事業者の中には、紙で保存している過去の請求書や契約書などをデジタル化したいものの、法的要件や届出手続きに不安を感じている方も少なくありません。しかし、適切な手続きを踏むことで、保管スペースの削減と業務効率化を実現できます。
本記事では、電子帳簿保存法にもとづいて過去の書類をスキャナ保存する方法について、届出書の提出ポイントもあわせて解説します。
電子帳簿保存法とは、帳簿や国税関係書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。企業の業務効率化や経理処理のデジタル化を促進することを目的として、段階的に改正が進められています。
電子帳簿保存法の保存方法は、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つの区分に分かれています。とくに重要な変更として、2024年1月1日から電子取引データの電子保存が義務化されました。
電子取引データを保存する際には、以下の対応が必要です。
これらの要件を満たすことで、法的に認められた電子保存が実現できます。
過去分重要書類とは、スキャナ保存の承認を受けて保存を開始する日(基準日)前に作成または受領した重要書類を指します(※)。基準日とは、電子帳簿保存法のスキャナ保存制度上で、紙の書類を電子データで保存することを正式に開始する日のことです。
法改正後は事前承認が廃止されたため、基準日は事業者が任意に決定した「保存開始日」とされています。ただし、過去分重要書類の電子化には別途「適用届書」の提出が必要です。
過去分重要書類のスキャナ保存は、2019年9月30日以降の適用届出書から活用可能となりました。これにより、スキャナ保存を開始する前に作成・受領していた古い書類も一度だけ電子化が認められています。
(※)重要書類とは、国税関係書類のうち、領収書や請求書などの国税庁長官が定める資金や物の流れに直結・連動する書類を指す。
2019年9月30日以降は、スキャナ保存を開始する前に作成・受領していた過去分重要書類もスキャナ保存(電子化)が可能です。これは電子帳簿保存法施行規則3条に定められており、入力期間の制限が撤廃されているなど、通常のスキャナ保存とは異なる特例的な取り扱いが適用されます。
ただし、適切な手順でスキャナ保存をしないと、税務調査で否認されるリスクや原本提示できないトラブルなどが発生する可能性があるため、要件を満たした正しい手順での電子化が重要です。
ここでは、過去分重要書類のスキャナ保存をおこなう際の4つのポイントについて解説します。
過去分重要書類をスキャナ保存するには、書類の種類などを記載した適用届出書をあらかじめ提出しなければなりません。この手続きは、通常のスキャナ保存とは異なる特別な要件として設けられています。
届出書はe-Taxソフトを使用して作成・提出でき、法人の場合は納税地を所轄する税務署長に1部提出しますが、特定要件に該当する場合は2部提出が必要です。
重要なのは、適用届出書の受理を確認してからスキャナ保存をおこなうことです。届出書受理前にスキャンした過去分重要書類は電子帳簿保存法上のスキャナ保存の対象外となってしまうため、受理の確認が完了してから電子化作業を開始しましょう。
過去分重要書類であっても、スキャナ保存要件にしたがってスキャン作業を実施する必要があります。具体的な保存要件は、以下のとおりです。
スキャン後の電子データ保存でも、保存要件を満たす必要があります。具体的な保存要件は、以下のとおりです。
電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の要件に則って保存していれば、紙の原本を破棄できます。ただし、契約内容や訴訟・文書送付などの観点から、法務上の原本保持検討が推奨されるケースもあるため、原本を破棄する際には法務部門との相談をおすすめします。
過去分重要書類をスキャナ保存するためには、事前に税務署への適用届出書の提出が必須です。この手続きにはいくつかの重要なルールがあり、これらのポイントを理解し正しい手続きを進めることで、要件を満たした過去の重要書類の電子化が可能です。
ここでは、過去分重要書類の適用届出書を提出する際のルールについて解説します。
法人税にかかわる国税関係書類は、これを事業所の所在地に保存することも認められています。しかし、電子帳簿保存法の定義にもとづき、各事業所の長は保存義務者には該当しません。
電子帳簿保存法では、適用届出書の提出主体が保存義務者とされ、その保存義務者を「国税に関する法律の規定により国税関係帳簿書類の保存をしなければならないこととされている者」と定義しています(※)。法人税法では、法人税にかかわる国税関係帳簿書類の保存義務者を法人自体としているため、過去分重要書類の適用届書を提出する際は、法人全体で提出する必要があります。
(※)引用:国税庁「1.国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等の制度の概要」
法人税にかかわる国税関係書類を各事業所で保存するとしている場合であっても、適用届出書は法人自体が、その法人の法人税法上の納税地(本店または主たる事務所の所在地)の所轄税務署長に対して提出しなければなりません。事業所所在地の税務署ではないため、提出先を間違えないよう注意しましょう。
過去分重要書類にかかわる電子データの保存をする保存義務者が、災害その他やむを得ない事情により、保存要件にしたがって電磁的記録を保存できないことを証明した場合には、その保存要件にかかわらず、その電子データの保存ができます。
これは、適用届出書を事前に提出していることが前提ですが、災害時などの緊急事態で、解像度・タイムスタンプ・検索機能などの通常のスキャナ保存要件を満たさなくても保存が可能となる重要な緩和措置です。
適用届出書は、すでに同一種類の過去分重要書類にかかわる適用届出書を提出している場合は提出できません。これは、事業者が過去分重要書類のスキャナ保存を開始・中止を繰り返し、その都度適用届出書を提出することで、本来は速やかにおこなうべき書類の電子化を意図的に遅らせる行為を防ぐための措置です。
本記事では、電子帳簿保存法にもとづいて過去の書類をスキャナ保存する方法について、届出書の提出ポイントもあわせて解説しました。
電子帳簿保存法により、過去分重要書類も適用届出書を提出することでスキャナ保存が可能です。届出書は法人自体が所轄税務署長に提出し、受理確認後にスキャナ保存要件にしたがって電子化を実施する必要があります。
適用届出書は重複提出不可のため、事前の十分な検討と正確な記載が重要です。正しい手続きにより、保管スペースの削減や検索性の向上、災害リスクの軽減など大幅な業務効率化を実現できます。過去の重要書類の電子化を検討している場合は、適用届出書の提出からはじめてみましょう。