更新日:2023.11.28
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電子帳簿保存法は令和4年(2022年)1月に義務化されました。しかし、令和5年(2023年)12月31日までは電子取引データを印刷した紙書類を保存しても問題ないとされる宥恕(ゆうじょ)期間が設けられています。なお、宥恕期間終了後は新たに猶予措置が整備されるものの、早めの対応が必要な点に変わりはありません。
本記事では、電子帳簿保存法の宥恕期間とは何か、宥恕期間終了後の猶予措置の概要、電子帳簿保存法対応へのポイントを解説します。
電子帳簿保存法の義務化により、電子データでやり取りした取引内容は電子データのままでの保存が義務付けられました。しかし、電子化への対応が追いつかない企業もあることから、環境整備の猶予のため設けられたのが宥恕期間です。
電子帳簿保存法とは、一定の要件を満たすことで国税関係書類の電子データでの保存を認める法律です。正式名称を、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律、と言います。
電子帳簿保存法では、帳簿書類と電子取引情報の2つが電子保存の対象となっているものの、2022年1月からはこのうち電子取引情報の電子保存が義務化されました。(※)
電子取引情報とは、以下のような電子的な方法を使って授受した取引情報です。
従来であれば電子的な方法で授受したデータを紙に印刷して保存しても、税法上の保存要件を満たすとされていました。しかし、電子帳簿保存法の義務化により、電子取引情報は全て磁気的記録により保存となりました。
※参考:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
宥恕期間が設けられた背景を紹介します。2022年1月から電子保存が義務化されたとはいえ、企業によっては管理体制の見直しや、電子保存の要件を満たすシステムの導入などが間に合わないとの指摘が相次ぎました。特に、個人事業主や中小企業ではインターネット環境に差があるだけでなく、知識の取得や費用の捻出も大企業のように進められるとは限りません。
そのため、電子保存義務化から2023年12月31日までの2年間は、一定の条件に該当する場合、従来通り電子データの紙での保存を認めることとしました。これが、電子帳簿保存法の宥恕期間です。
なお、宥恕とは寛大な心で許すことを意味しており、実行期間の先送りに当たる猶予とは異なります。そのため、あくまでも電子保存の義務化はすでに始まっています。
宥恕措置の内容は次の通りです。宥恕措置では、2022年1月以降、電子保存の要件を満たせないやむを得ない事情がある場合に限り、従来どおりの紙保存を認めています。やむを得ない事情とは、具体的には以下が該当します。
該当する項目があれば、間に合わなければやむを得ない事情があったと判断される可能性もあります。
当初、電子保存の宥恕措置を受けるためには所管の税務署への届出が必要でした。しかし、令和4年度税制改正大綱(※)からは、電子化できないやむを得ない理由を紙資料にまとめて提示するだけで良いとされたため、個別に税務署に報告する必要はありません。
※参考:財務省「令和4年度税制改正の大綱」P76
電子帳簿保存法の宥恕期間以降の対応をご紹介します。先述の通り、電子帳簿保存法の宥恕期間は2023年12月31日で終了します。とはいえ、宥恕期間終了後は新たに猶予措置が設けられることが令和5年度の税制改正で決定されました。
猶予措置開始の令和6年(2024年)1月1日以降は、宥恕期間時と同様のやむを得ない事情がなければなりません。また、税務調査などのときにプリントアウトした書面と、その元となる電子取引データのダウンロードの求めに応じられることが条件となります。
なお、現時点では電子帳簿保存法の猶予措置がいつまで継続されるかは明らかになっていません。電子帳簿保存法未対応の企業は、猶予措置の間に対応できる環境の整備が必要です。(※)
※参考:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました 〜令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要〜」P3
電子取引データの保存方法をご紹介します。電子帳簿保存法は複数回の改正や変更を経ているため混乱も生じています。2023年1月1日以降、電子帳簿保存法に則り電子取引データを保存するためには以下の要件を満たせば問題ありません。(※)
それぞれ次に詳しく解説します。
※参考:国税庁「【令和6年1月以降用】電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください」P1
改ざん防止のための措置では、以下が挙げられます。
以前までは、受領者が自署した上で、3営業日以内にタイムスタンプを付与する必要があったものの、要件緩和により最長約2カ月までに付与すれば良いものとなりました。また、訂正・削除の履歴が残る(もしくは修正・削除できない)システムで授受や保存をすれば、タイムスタンプの付与も必要ありません。
さらに、個人事業などで事務処理を行う担当者が固定されている場合、システム費用をかけず改ざん防止のための事務処理規程を作成し、整備・運用する方法でも対応可能です。(※)
※参考:国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」
検索要件では、取引年月日・取引金額・取引先で検索できることが求められます。なお、従来までは勘定科目なども検索要件に含まれる他、2つ以上の任意の項目を組み合わせて検索できることなども要件とされていました。しかし、法改正により取引年月日・取引金額・取引先で検索できれば良いこととなりました。
具体的な対応方法は以下の通りです。
電子帳簿保存法に対応したシステムでは、保存要件・検索要件、ともに満たすものが多いため、それらのシステムを導入しても良いでしょう。
また、システムを用いない方法としては、Excelなどで索引簿を作って、授受したファイルと紐づける方法があります。他に、ファイル名自体を検索要件に合うように設定するのも方法の一つです。例えば、20240125_株式会社A_800000などとなります。(※)
※参考:国税庁「【令和6年1月以降用】電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください」P1・2
ディスプレイなどを備え付けることに関しては、通常の事務処理などで電子データを確認する場合、パソコンやスマートフォンの画面で確認できます。そのため、新たにディスプレイなどを用意する必要はありません。
なお、保存するファイル形式は指定されていないため、PDFでもスクリーンショットでも問題ありません。
電子帳簿保存法の宥恕期間は2023年12月31日までで終了し、2024年1月1日から猶予措置がスタートします。そのため慌てて対応する必要はないと思われるものの、そうではありません。猶予措置がいつまで継続されるか定かではない以上、猶予措置の間に電子帳簿保存法への対応を進めた方が良いでしょう。やるべきことを解説します。
まずは自社でどのような電子取引データを扱っているか、電子取引データをどのように保存しているか確認しましょう。
特に、猶予措置に移行すると、紙保存だけでは認められず、元となった電子データの保存や求めに応じた提示も必要です。もし、紙に出力した後のデータは削除するなどの運用をしているなら、改める必要があります。
どのような電子取引データがあるかを把握したら、データの保存方法を確立しましょう。先述の通り、電子保存では、改ざん防止のための措置をとることと検索要件を満たすことが求められます。
これらの要件を満たすために、どのような方法を選択すれば良いかは、事業規模や電子取引の総量によっても異なります。特に、取引データが多いのであれば、専用のツールなどを導入して管理した方が事務負担の軽減に役立つでしょう。
電子保存の方法が決まったら、どのようなワークフローで対応するかを事前に確立するのがおすすめです。特に、契約書や見積書などは社内稟議で承認を得てから発送することが多いでしょう。このとき作成はデータで行い、稟議は書面で回すなど、アナログとデジタルが混在していると余計な手間が掛かり、間違いも増えがちです。
そのため、ワークフローシステムを導入するなど、周辺の事務作業も含めてデジタル化を進めるのが良いでしょう。
電子帳簿保存法は専用のシステムなどを導入しなくても進められます。しかし、従業員数の多い中小企業や、業務を効率化したい個人事業主であれば専用ツールの導入検討をすると良いでしょう。
電子帳簿保存法に対応したシステムは各ベンダーで提供しているため、月額利用料やどのようなことができるかなども異なります。また、導入までにはある程度の選定期間も必要です。電子帳簿保存法の宥恕期間や猶予措置は、これらのシステムの概要を確認し、選定を進めるのにも良い機会です。
2022年1月より電子取引情報の電子保存が義務化されました。しかし、中小企業などでは対応が間に合わない恐れがあるとの指摘から、2023年12月31日まで従来の紙保存を認める宥恕期間が設けられています。
宥恕期間終了後は猶予措置が設けられるものの、早めに電子帳簿保存法への対応が必要な点に変わりはありません。対応が進んでいない企業では、宥恕期間中に専用のシステムを導入するなどして、対応できる仕組みを整えましょう。