更新日:2024.05.13
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近年は地球温暖化が進んでおり、原因となるCO2など温室効果ガスの削減を目指して、世界中でさまざまな取り組みが行われています。日本でも2050年にカーボンニュートラルの実現、2030年に温室効果ガス削減目標を掲げた「第6次エネルギー基本計画」が、2021年に閣議決定されました。
目標を達成するため企業でも脱炭素に取り組み、温室効果ガスを削減する必要があります。企業のCO2排出量を算定する指標の1つが「SCOPE1」です。
今回の記事では、企業によるサプライチェーン排出量の算定に関わるSCOPE1と、SCOPE2,3,4との違いを紹介します。SCOPE1の算定方法や他の企業の取り組みも紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
SCOPE1とは、企業による燃料の使用や、製品を作るための製造工程などで発生するCO2の排出量です。その中でも燃料使用による直接の排出を指し、他社から供給された電気やガスなどの燃料の使用による排出はSCOPE2に分類されます。ここではSCOPE1の概要と、SCOPE2,3,4との違いを紹介します。
SCOPE1など、SCOPEはサプライチェーンにおけるCO2など全ての温室効果ガスの合計排出量を分類したものです。サプライチェーンとは、製品が作られて消費または廃棄されるまでの以下の過程を指します。
SCOPE1とは企業の活動により直接排出される温室効果ガスを指し、大きく2つに分けられます。
オフィスでの電気の使用や、製品を出荷する際のトラックでの輸送でも温室効果ガスは排出されますが、SCOPE1には該当しません。排出量の指標にはSCOPE1だけでなく2,3があります。SCOPE1,2,3は、企業がそれぞれの区分ごとの排出量を把握し、削減目標を決めるために算定する数値です。
SCOPE1には、業種別に以下のような発生例があります。
燃料使用による発生 |
製造業 |
加熱処理で火を使うことにより発生した温室効果ガス |
飲食業 |
・ガスコンロの調理で発生した温室効果ガス ・会社の車で仕入れを行い発生した温室効果ガス |
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製造過程が元になった発生 |
製造業 |
鉄やセメントの製造過程で化学反応により発生した温室効果ガス |
エネルギー産業 |
石油やガスの採掘により発生したメタンガス |
飲食店などで調理の際、ガスコンロでなくIHヒーターを使う場合や、仕入の際にガソリン車でなく電気自動車を使用した場合は、SCOPE1ではなくSCOPE2に該当します。
サプライチェーン排出量算定の元となるSCOPEには「SCOPE1」だけでなく「SCOPE2・3・4」があります。SCOPE1・2・3は、いずれも温室効果ガス発生量を指し、発生源となる活動によって分類されます。一方でSCOPE4は、企業の製品やサービスの利用によって削減できる温室効果ガスの量です。
区分 |
排出活動 |
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SCOPE1 |
燃料の燃焼や工業プロセスによる、事業者からの直接的な温室効果ガスの排出 |
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SCOPE2 |
電気やガスなど他社から供給された燃料の使用に伴う温室効果ガスの排出 |
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SCOPE3 |
SCOPE1、SCOPE2以外による間接的な排出 |
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SCOPE4 |
企業の商品やサービスにより削減できた温室効果ガスの量 |
SCOPE4は、近年新たに設定された区分です。SCOPE1・2・3が温室効果ガス排出量を表すのに対して、SCOPE4は削減に貢献した量を指します。温室効果ガス削減のために電気自動車や再生エネルギーを製造する過程で、排出量がかえって増加してしまうジレンマを解消するため設定されました。
SCOPE1を算定することで、自社の直接的な活動でどれほどの温室効果ガスを排出しているかを知ることが可能です。企業が排出する温室効果ガスの量を把握し管理するだけでなく、外部へ向けて情報開示する動きが、世界的にも活発になっています。ここからは、SCOPE1の算定方法を紹介します。
SCOPE1では、自社そのものの活動だけでなく連結運営の事業者、保有する全ての事業活動が算定対象です。SCOPE1の算定は、発生の原因によって以下の式で求められます。
「CO2排出源単位」とは、排出の元となる活動あたりのCO2排出量を示したものです。例えば、1トンの廃棄物を焼却した際に、どのくらいのCO2が排出されるかを数値化した単位です。SCOPE1を算定するには、対象となる年度に企業が使用した燃料の種類と量を把握しておく必要があります。
SCOPE1の算定に必要な排出原単位のデータベースには、以下の2種類があります。
「排出原データベース」は、環境省が地球温暖化対策推進法(温対法)に基づいて、ホームページで公開している排出係数の一覧です。一方「IDEA」は、産業技術総合研究所と産業環境管理協会が共同で開発したデータベースで、現在バージョン3がライセンス販売されています。
IDEAは、日本国内の全ての産業をモデル化することを目的に、製品の製造から廃棄までを考慮しながら作成されていることが特徴です。国内のほぼ全ての製品やサービスをデータにまとめています。
製品やサービスが手元に届くまでのサプライチェーンにより排出された温室効果ガスの量は、以下の式で求められます。
原料調達から製造、販売まで一連の流れにより発生する温室効果ガスの排出量は、サプライチェーン排出量と呼ばれます。SCOPE1・2・3それぞれを算定することで、自社で排出する温室効果ガスのうち、どの区分からの発生が多いか把握することが可能です。企業全体の温室効果ガス排出量を管理し、社外に向けて開示する動きが日本でも広がっています。
企業がサプライチェーン排出量を知る目的は、以下の3点です。
自社が排出する温室効果ガスの量を把握することで、どのくらい減らせばよいか目標を立てやすくなります。また、外部へ向けて取り組みをアピールすることで、新たなビジネスを拡大するきっかけにもなるでしょう。ここからは、それぞれの目的について紹介します。
サプライチェーン排出量を知ることで、自社の活動で排出している温室効果ガスがどの程度の量なのか把握できます。CO2発生の元となる燃焼や電気の使用に気をつけるだけでなく、製品を作るための原料の調達や消費にも、温室効果ガスの排出が関わっていることが理解できるでしょう。
自社の排出量を社内に広めることで、社内全体で温室効果ガスを削減する意識がより高められます。温室効果ガスの排出量を下げるためには、自社での取り組みだけでなく取引先との連携も必要です。他の業者と情報交換しながら連携して取り組めるので、効果も上がりやすくなります。
温室効果ガスの発生が、どの区分で多い傾向にあるか分かるため、優先的に削減する対象を絞りやすくなります。製品のサプライチェーンで、原料調達や製造工程・輸送などそれぞれの工程ごとに算定すると、どの工程で排出量が多いか把握できます。
何も分類されていない状態で削減に取り組むと、どの工程をターゲットとして取り組めばよいか分からないため、効果的な戦略が立てられません。SCOPE1・2・3を区分ごとに分けて算定することで、より効率的に削減できる戦略が立てられます。
自社における環境への取り組みや、温室効果ガス削減への貢献を社外に向けて公表することで、消費者や投資家へのアピールが可能です。近年、環境や社会に配慮した事業活動を行う会社や、適切な企業統治がされている会社に投資する「ESG投資」が国内外で増加しています。
地球環境に配慮した活動を行う企業として外部にアピールすることで、投資家から資金を集めたり製品の売り上げ向上につながったりと、ビジネスチャンスが拡大するきっかけになるでしょう。
サプライチェーン排出量の算定に取り組み、温室効果ガス削減を目指す3つの企業を紹介します。
各企業の削減目標や事例を紹介するので、脱炭素への取り組みを行う際の参考にしてください。
株式会社セブンアンドアイは、セブンイレブンジャパンやイトーヨーカドーなど多くの企業を抱えたグループです。温室効果ガス削減のため、グループ全体で取り組む重点課題の1つとして脱炭素を掲げています。グループ内でCO2排出量削減やプラスチック使用における対策などを行う「環境イノベーションチーム」を立ち上げ、以下のような取り組みを行っています。
温室効果ガス削減など、環境負荷低減の取り組みを評価・検証するため、2015年からCO2排出量の第三者審査を実施しています。第三者からの審査を受けることで、数値の正確性を社内外にアピールすることが可能です。2022年には事業会社12社が、SCOPE1・2を算定し公表しています。
NEC日本電気株式会社は、ICT機器の製造や販売、ITサービスのコンサルティングを行う企業です。2050年までのサプライチェーン全体でCO2排出量をゼロにすることを宣言し、以下のように段階的な目標を組んでいます。
2030年目標 |
・SCOPE1・2を55%削減 ・SCOPE3を33%削減 (どちらも2017年比) |
2040年目標 |
・SCOPE1・2・3からCO2排出量を実質ゼロにする ・再生可能エネルギー電力を100%使用 |
2018年には、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明しました。気候変動によるリスクへの対応について情報開示を行い、管理をしていくと表明しています。
大手総合建設会社である鹿島建設株式会社は、以下のような取り組みでSCOPE1・2・3をゼロにすることを目指しています。
CO2の排出量が全体の約9割を占めている施工現場では、軽油や電力の使用を減らすことで排出量を減らします。エネルギー削減を目的とした「環境データ評価システム」を開発し、全ての現場と工程でCO2排出量を月単位で把握する取り組みを2019年6月から開始しています。
SCOPE1とは、企業の活動により直接排出される温室効果ガスのことです。SCOPE1以外にSCOPE2・3・4があり、以下のように分類されます。
企業の活動で排出される温室効果ガスの全体量は、SCOPE1・2・3を足した数値で求められ、サプライチェーン排出量と呼ばれます。自社のサプライチェーン排出量を算定し、温室効果ガス削減に取り組むことは、政府で掲げられている2050年カーボンニュートラルの実現に役立つでしょう。
カーボンニュートラルへの取り組みを社外へ公表することは、環境に配慮した活動をしていることを消費者や投資家へアピールすることにもつながります。