更新日:2024.11.29
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2023年10月からインボイス制度が始まり、適格請求書(インボイス)の発行登録を行っていない事業者との仕入取引では、仕入税額控除ができなくなりました。さらに、電子帳簿保存法の改正により、2024年1月1日以降は電子取引による電子データでの保存が義務化されています。
インボイス制度と電子帳簿保存法は、それぞれ異なる要件を満たす必要があり、特に紙と電子データの保存方法が異なるため、どちらを優先すべきか悩む方も多いでしょう。
2つの違いや関係性を理解できると、経理処理がスムーズになります。それぞれの対応ポイントを詳しく解説しますので、ぜひお役立てください。
インボイス制度と電子帳簿保存法は、目的や運用方法に違いがあります。ここでは、2つの違いと関係性を解説します。
インボイス制度とは、事業者が消費税を正確に計算し、適切な税額を納めるための制度です。2023年10月1日から導入された制度で、正式名称は「適格請求書等保存方式」です。
インボイス(適格請求書)に仕入時の消費税額を明確に記載することで、支払税額控除の算出や確認作業の効率化が図れます。適格請求書には、登録番号や税率ごとの消費税額など、決められた記載事項を正確に記入する必要があります。
記載漏れがあると、受領側が仕入額控除を受けられなくなる可能性があるため、注意が必要です。
電子帳簿保存法は、税法上保存が必要な国税関係書類を対象に、電子データで保存することを定めた法律です。インボイス制度は実務的な仕組みである「制度」に対し、電子帳簿保存法は国で定めた「法律」という点に大きな違いがあります。
電子帳簿保存法は1998年に施行され、デジタル化の進化に伴い頻繁に改正されています。2022年の改正では、電子取引による電子データの保存が義務化されましたが、2年間の猶予期間が設けられ、一時的に紙での保存が認められました。2024年1月1日からは、原則として紙での保存が禁止されています。
現在は「令和5年度税制改正大綱」により、一定の要件を満たす事業者に対して猶予措置が設けられています。ただし、電子取引で発生したデータは、税務調査等の際にダウンロードできる状態にしておく必要があるため、実質的に電子データでの保存が必要です。
そのため、電子データ保存への対応は、今後ますます重要になってくるでしょう。
参照:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」〜令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要〜
インボイス制度と電子帳簿保存法は、それぞれ独立した制度と法律であり、内容も異なります。しかし、税務処理において正確性と効率性を高める点では、共通しているといえるでしょう。
適格請求書は電子帳簿保存法の対象である「取引関係書類」に該当するため、インボイスを電子データで保存する際は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。このように双方には密接な関係性があるため、それぞれの条件に沿って適切に運用することが大切です。
インボイス制度に対応する際は、以下4つのポイントを押さえておくと、スムーズに業務が進められます。
インボイスを発行するためには、所轄の税務署長に登録申請書を提出し、適格請求発行事業者としての登録が必要です。消費税の仕入額控除に関わる制度に登録できる事業者は、課税事業者に限られます。
また、仕入税額控除を受けるには、インボイス制度が定める要件を満たす必要があります。適格請求書は紙または電子データどちらの方法でも発行、受領が可能です。
ただし、電子取引でやり取りした場合は、受領側と発行側双方で電子帳簿保存法に基づいた保存が必要です。保存した書類は、7年間の保存が義務付けられています。
電子帳簿保存法には、以下3つのポイントがあります。
メールやインターネット上でやり取りしたデータは、必ず電子データとして保存し、保存の際は、電子帳簿保存法に基づく真実性や可視性を確保するための要件を満たす必要があります。また、保存期間は法人と個人事業主で異なるルールが定められているため、事業形態に応じた管理が必要です。
適格請求書を受け取った場合、電子帳簿保存法に基づく保存方法は、紙もしくは電子データで受け取った場合で異なります。それぞれの保存方法を詳しく解説します。
電子帳簿保存法の改正により2024年1月1日以降、電子取引による電子データでの保存が義務化されています。そのため、電子インボイスは、電子帳簿保存法が定める電子取引に該当します。
電子取引の主な具体例は以下のとおりです。
これらは、電子帳簿保存法に従い適切に保存する必要があります。
関連記事:電子帳簿保存法改正の4つのポイントをわかりやすく解説
電子帳簿保存法では、紙でインボイスを受領した場合「紙のまま保存」または「スキャナ保存」が認められています。紙のインボイスをデータ化して保存するためには、スキャナ保存の要件を満たす必要があります。
主な要件は以下のとおりです。
これらは一部を抜粋した基本要件であり、他にも真実性や可視性を確保するための要件があります。インボイスをスキャナ保存する際は、保存要件を満たしていないと罰則が科せられる恐れがあるため注意しましょう。
参照:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」〜令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要〜
インボイス制度と電子帳簿保存法の対応は、義務化された対応を優先することが大切です。適格請求書は紙または電子データいずれかの方法で発行が可能です。一方、電子データで発行する際は、電子帳簿保存法に基づいた保存要件を満たす必要があるため、書類の管理方法が混在しやすくなります。
現在、義務化されているのは、電子帳簿保存法による電子取引データの保存です。この機会に、電子インボイスの発行も含めて電子化に取り組むことをおすすめします。
インボイス制度と電子帳簿保存法を併用すると、以下のメリットがあります。
それぞれ解説します。
インボイス制度と電子帳簿保存法を併用することで、保存方法を一元化できます。紙で受け取った書類と電子データが混在すると、探す手間もかかり、管理するのも大変です。
保存方法を電子データに統一することで、管理が楽になり、確認作業も迅速に行えるでしょう。
インボイス制度と電子帳簿保存法の両方に対応したシステムを導入すると、取引情報の一元管理が可能です。手作業での入力ミスや、処理の遅延を防ぎ、迅速かつ正確な対応が実現できます。
また、電子帳簿法は頻繁に改定されるため、クラウドシステムを導入していれば、最新の法改正にも即座に対応できる点が大きなメリットです。
経理業務の効率化ができる点も、インボイス制度と電子帳簿保存法を併用するメリットのひとつです。インボイス制度の導入により、仕入税額控除の算出が複雑になり、慣れるまでは処理に時間がかかることもあるでしょう。
また、インボイスは紙と電子データの両方を扱うケースもあるため、経理業務が煩雑化しやすくなります。このような課題を解決するため、電子データとして管理を一元化することで、経理業務の効率化が図れます。
電子インボイスへの移行により、今まで発生していた紙代やインク代、保管用のファイル代などのコスト削減につながります。保管スペースを借りている事業者は、賃料などのランニングコストの削減にもなるでしょう。
また、電子データの保存方法を導入すれば、物理的な書類の管理が不要になるため、空いたスペースを有効活用できるメリットもあります。
インボイス制度と電子帳簿保存法は、多くの事業者に適用されているため、同じ対応を取ることで取引先との協力体制を構築できます。電子データ化を進めておくと、社内管理だけでなく、取引先の経理業務も効率化できます。
また、インボイス制度により買い手側にとっては納税負担が軽減されるため、取引の持続性が高まり、双方にとって安定した関係性を保てるでしょう。
インボイス制度と電子帳簿保存法は、互いに深く関係しています。紙は紙、データはデータとして別で管理し続けていると、業務の効率化が進まないこともあるでしょう。
しかし、併用して運用することで、より効率的な取引が可能になります。また、経理業務の効率化やコスト削減が図れるため、書類の混在やミスを防ぎ、スムーズな経理処理が可能です。
取引先との信頼関係の構築にもつながるため、この機会に業務のシステム化を実現しましょう。