更新日:2024.06.25
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飲食店は買い手と売り手双方の立場から仕入税額控除に関係するため、インボイス制度を理解しておく必要があります。しかし「インボイス制度で何が変わるのか分からない」「自店でも対応すべきか判断できない」など、お悩みの方は多いのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、インボイス制度によって飲食店が受ける4つの影響について詳しく解説します。顧客側のメリットや対応するために必要な準備も紹介しているので、飲食店を経営されている方はぜひ参考にしてみてください。
インボイス制度とは、2023年10月1日より施行された新しい仕入税額控除の方式です。「適格請求書等保存方式」が正式名称であり、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えることを目的としています。インボイス制度の導入後、買い手が仕入税額控除を受ける際は売り手が交付したインボイス(適格請求書)が必須となります。
仕入税額控除とは課税事業者が消費税の納税額を計算する際に、売上時から仕入れ時にかかった消費税額を差し引きできる制度です。仕入税額控除を受けることで、売り手と買い手の二重課税を避けられるようになります。
インボイスは取引年月日や取引内容など、記載すべき項目が決まっているのが特徴です。内容に不備がある場合は、仕入税額控除を受けられません。またインボスを発行できるのは、適格請求書発行事業者だけです。ただしインボイス制度は義務ではないため、対応するかどうかは飲食店経営者の判断に委ねられます。
インボイス制度の導入により、飲食店では以下4つの影響を受けると考えられます。
インボイス制度への対応を検討するためにも、どのような影響があるのか把握しておきましょう。
接待や慰労会などで法人の顧客が飲食店を利用する場合、かかった費用を経費計上するためにレシートや領収書が必要です。しかし飲食店でインボイスを発行できないと、仕入税額控除を受けられず企業の税負担が大きくなります。
多くの企業はコスト削減に取り組んでいるため、インボイス制度に対応した飲食店を利用する可能性が高いです。つまりインボイスを発行できない飲食店は、法人の顧客が減ってしまう恐れがあります。
弁当屋や惣菜屋などテイクアウトが多い飲食店は、会社や学校から大量に注文を受けることがあります。しかし飲食店がインボイスを発行できない場合、顧客は仕入税額控除を受けられません。結果的に顧客側の税負担が大きくなるため、価格交渉をされる可能性があります。
最近では福利厚生の1つとして、弁当を提供する企業が増加傾向です。弁当による売上が多い飲食店が、適格請求書発行事業者でないことが原因で、取引を中断されるリスクも考えられます。顧客との長期的な取引を継続するために、インボイス制度への対応が必要なケースがあるでしょう。
業者から食材や飲料を仕入れるときは、自身の店が買い手側となります。仕入れ先がインボイスに対応していない場合、仕入税額控除は受けられません。税負担の増加を避けるためには、インボイスを発行できる業者に変更する必要があります。
ただしインボイス制度開始後の6年間は経過措置として、仕入れ先が適格請求書発行事業者でなくても一定の割合で仕入税額控除を受けることができます。控除される割合は2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%、2026年10月1日〜2029年9月30日の間は50%です。経過措置を適用するためには、必要な事項が記載された帳簿または請求書などの保存が必須となります。
適格請求書発行事業者に登録申請できるのは、課税事業者のみです。免税事業者が課税事業者になると、インボイスの作成や消費税の申告・納税など、今までよりも経理業務が増えてしまいます。
適格請求書発行事業者になる前から課税事業者の場合でも、インボイスと通常の請求書を区別して処理するのに手間がかかります。経理はコア業務ではないものの、飲食店を経営するうえで不可欠です。インボイス制度に沿った経理処理が難しい場合は、専門会社に委託することも検討しましょう。
買い手となる顧客がインボイス制度に対応した飲食店を利用する場合、以下2つのメリットを享受できます。
特に法人の顧客が多い飲食店は、インボイス制度の影響を大きく受けます。ここでは、インボイス制度を導入することで得られる顧客側のメリットを詳しく見ていきましょう。
顧客側は飲食店に発行してもらったインボイスを保存することで、仕入税額控除を受けられます。インボイス制度では、必要な項目が記載されたインボイスの発行・保存した取引のみ仕入税額控除の対象です。税負担が軽減されると会社に残るお金が増えるため、事業の成長・維持に最適な資金投下が可能となります。
インボイス制度では、軽減税率と標準税率に分けて取引内容を記載することが定められています。導入前は複数の税率が混在しており、確定申告や仕入税額控除を受ける際に再度計算する必要がありました。
一方でインボイスであれば税率の区分ごとに消費税額が記載されているため、消費税を正確に把握しやすくなります。また複数税率を扱う場合に、不正やミスが起こりにくくなることがメリットです。
飲食店でインボイスを発行するためには、以下3つの準備が必要です。
適格請求書発行事業者になることで、飲食店でもインボイスを発行できるようになります。またスムーズにインボイスを発行するためには、環境を整えておくことが重要です。
適格請求書発行事業者になるためには、所轄の税務署に登録申請書の提出が必要です。申請後に審査があり、事業者登録番号が通知されます。免税事業者の場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった後に登録申請が可能です。
ただし2023年10月1日〜2029年9月30日の期間中に適格請求書発行事業者に登録された場合は、登録申請のみで課税事業者になることができます。
飲食店は適格簡易請求書の発行が認められており、必要な項目が記載されていればレシートや領収書でもインボイスとして認められます。インボイス制度に対応したレシートや領収書を発行するためには、専用のレジが必要です。
また経理業務の負担が増えるので、インボイス制度に対応した会計システムの導入も検討しましょう。顧客に交付したインボイスだけでなく、仕入れ先から受け取った適格請求書の処理や管理も容易になります。
手書き領収書でも以下の項目が記載されていれば、インボイスとして有効です。
引用元:国税庁|適格請求書等保存方式の概要-インボイス制度の理解のために-
事前に記載項目を把握しておくことで、スムーズにインボイスを発行できるようになります。顧客を待たせる時間も減らせるので、インボイスに対応したレジの導入予定がない飲食店は、発行手順をルール化しておきましょう。
飲食店でインボイス制度を導入する場合、以下3つの措置・制度を活用できます。
措置や制度を活用することで、インボイス制度の導入に伴う手間や税負担が軽減されます。飲食店側にメリットをもたらすため、措置・制度の内容を詳しく見ていきましょう。
負担軽減措置とは、納税額が売上に対して課された消費税額の2割だけで済む制度です。インボイス制度の導入に伴い、免税事業者から課税事業者になるケースが対象となります。消費税の納税額は、以下の式で求められます。
消費税の納税額=「売上にかかる消費税額 - 売上にかかる消費税額 × 80%」
負担軽減措置は納税額の計算を簡易化し、中小企業や個人事業主の税負担を軽減することが目的です。2026年9月30日まで適用され、個人事業主の場合は2023年10月〜12月の申告から2026年分までが対象となります。法人(3月決算)の場合は、2023年10月〜翌3月の申告から2026年分まで適用可能です。
1万円未満の少額取引に関する措置とは1回あたりの取引が税込1万円未満の場合、インボイスがなくても帳簿保存だけで仕入税額控除を受けられる制度です。2023年10月1日〜2029年9月30日までの取引で、基準期間(※1)の課税売上高が1億円以下である事業者が対象です。特定期間(※2)における課税売上高が5,000万円以下の事業者も措置の適用が認められます。
※1:個人事業者の場合はその年の前々年(1月1日〜12月31日まで)、法人の場合は原則としてその事業年度の前々事業年度
※2:個人事業者の場合は前年1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は原則として前事業年度の開始日から6ヶ月の期間
簡易課税制度は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象となり、一定の利率を使用して消費税額を算出することができます。消費税の計算方法を簡易化し、事務負担を軽減するのが目的です。具体的には、以下の式で納付する消費税額を算出します。
みなし仕入率を用いることで納税額が予測しやすくなり、資金計画も立てやすくなります。
インボイス制度の導入により、買い手が仕入税額控除を受ける場合は、売り手が発行したインボイスが必要です。インボイスを発行できない飲食店は、法人の顧客離れや取引先からの価格交渉などのリスクが高まります。しかしインボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者だけです。その一方で、適格請求書発行事業者になると免税事業者の条件を満たしていても課税事業者になる必要があるので、消費税の支払い義務が発生します。
インボイス制度には、メリット・デメリットの両方が存在します。自店の経営状況を考慮したうえで、対応するか検討することが大切です。自身で判断するのが難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。